東京高等裁判所 平成11年(う)1246号 判決
被告人 トニーことアントニオ・シー・サン・ホセ
〔抄 録〕
所論は、原判示第二の事実の認定に供したエリックことロデリック・ジー・イタブレ(以下「エリック」という。)及びコーラことコラソン・ピー・ザモラ(以下「コーラ」という。)の検察官に対する各供述調書の不同意部分については刑訴法三二一条一項二号前段に該当する書面として取調べられたものであるが、エリックは右事実に係る起訴前の平成一〇年八月一九日、コーラは右起訴後の平成一一年一月一九日にそれぞれ送還されているところ、譲渡人の原判示ノリことイシカワ・エルノール・エム(以下「ノリ」という。)は平成一〇年五月二二日には逮捕されている上、被告人は当初より犯行を否認していたのであるから、エリック及びコーラは、日本に留め置いて証言させるべきであったのであり、このように両名についてとり得る手段を尽くしても公判準備ないし公判期日に供述することができない状態にはなかったのであるから、同人らの右各供述調書の不同意部分は、同号前段に該当する書面とはいえず、したがって、右各供述調書の不同意部分を証拠として採用した原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというのである。
しかしながら、原審は、平成一〇年一二月一八日の第一回公判期日において、本件罪体の中心命題である譲渡自体を立証趣旨とする重要証人ノリを採用し、平成一一年二月一五日及び同年三月三日にそれぞれ開廷された第二回及び第三回各公判期日において、同人の証人尋問を実施し、引続き検察官は同人の検察官に対する各供述調書中不同意部分の請求を撤回し、第四回公判期日において請求済みの所論指摘の各供述調書中の不同意部分を刑訴法三二一条一項二号前段の書面に該当すると主張し、原審はこれを容れてその取調べを終えたことが認められる。してみると、本件において、覚せい剤を被告人に譲り渡したという直接事実に関する最重要証人を不同意書証に替えてまず取り調べた原審の措置は事案解明のための重要な手続を履践したというべきである上、所論指摘の各供述調書中の立証趣旨が間接事実若しくは補助事実に関するものであることにもかんがみると、これに続き送還により出国した者に係る右各供述調書中の不同意部分を同号前段に該当する書面として証拠調べ請求をしたことが、手続的正義の観点から公正さを欠くなどといえないことは明らかである。なお、弁護人は右各供述調書について、外国人の場合は通訳の正確性及び生活習慣の相違などから、同号所定の特信情況は認められない旨主張するが、右情況の存在は同号前段の要件とは解されず、主張自体失当である。
(河辺義正 廣瀬健二 高橋徹)